تسجيل الدخول私はまたあの日のことを思い出して、少しずつ落ち着かなくなってくる。「こんな素敵な男性がそばにいたら裏切るだなんて絶対出来ないわよね」「私なら絶対彼に尽くしまくるわ。こんなカッコよくて素敵な旦那様の奥さんだなんて、そんな幸せで贅沢なことないもの」その女性たちは言いたい放題言い始める。私だって、別れたくなんてなかったわよ……。彼に私のすべてを捧げて尽くしたし、彼と結婚出来てそばにいられるだけで、誰より幸せだと、そう思ってたわ……。私は心の中で、そんなふうに言い返しながら、悔しくてギュッとお酒のグラスを持つ手が強くなる。「でもそんないい加減な人なら別れて正解ですよね。桐生さんにはそんな最低な女、相応しくないわ。桐生さんほど素敵な男性なら、いくらでももっと素敵な女性がいるはずです。たとえば、私なんか……」フッ。やっぱりこの人もそうなのか。あからさまに私をけなして、自分をアピールする魂胆。そうね……。そんな噂を信じて離婚を決めた彼ですもの。さぞかし共感して、そんな素敵な誘いに乗るんでしょうね。どうして私がこんなことを聞かないといけないのかしら……。私はグっとその悔しさを静かに堪える。確かにここにいる女性はモデルになれるほどの美しい女性ばかりだし、彼の妻として私以上にもっとお似合いで相応しい相手はたくさんいるものね……。「そうですね。ここにはあなたたちみたいに、とても華やかで素敵な女性がたくさんいらっしゃいますしね」……ほら、やっぱり。いつもあなたの隣にいた私は地味で冴えない女だったもの……。「確かに、元妻は、あなたたちみたいに美しく華やかなタイプではなかったですから」「そうなんですね。フフッ。お気の毒」自分でそう思っていたとしても、彼が同じようにそう言葉にすると、やっぱり結構堪えるな……。「ですが……。彼女は、俺の妻らしくどんなときも清楚で慎ましく、どんな場でも恥ずかしくない装いと態度で、誰よりも品がある、俺に相応しい妻でいてくれました」……え?一弥さんのその言葉に、急に鼓動が早くなる。まさか彼が私のことを、そんなふうに思っててくれていただなんて……。そして、それを他の女性に言ってくれるなんて……。嬉しくて胸の奥がギュッと切なくなる。さっきまであんなに私のことをけなしていたのに……。こんな気遣える優しい部分も、この人は
夜のパーティーで、私はAKIさんに言われた言葉を思い出しては、妙にソワソワしている時間をさっきから過ごしてしまう。そんなAKIさんを、つい探してしまう自分がいる。そして、ようやく見つけたAKIさんは当然ながらたくさんのモデルたちに囲まれている。だけど、どうも私が接するAKIさんと皆の前でのAKIさんの雰囲気がまったく違うように思える。女性たちから囲まれてはいるものの、AKIさん自身の雰囲気はクールで無口なままで。特に誰にも微笑みかけたりもしない。黙って黙々とお酒を飲み続けているだけ。それでも負けじと女性たちは彼にアピールし、気に入られようとしてるのが目に見えてわかる。あーいうあからさまな態度、とてもじゃないけど私には出来ない手段だ……。だけど、彼は、こうやって本来黙っている姿は少し近寄りがたいくらいの雰囲気なのに、私と二人の時は、なぜだかフランクに話しかけてくれる。微笑みかけてもくれるもんな……。どうして私にはそんな姿見せてくれるんだろう。っていうか、話したいことって何!?本当にこのあと抜け出そうと思ってるのかな!?そんなこと出来る!?私は彼を遠目に見つめながら同じく悶々としながら、手にしたお酒を口に運ぶ。「何を見てる」すると、急に隣からスッと声をかけられる。「うわっ! ビックリした……」「なんだ。何をビックリすることがある」声をかけてきた一弥さんは不服そうに答える。「いえ。別に……」危ない。彼を見てるのに気付かれちゃうとこだったわ。いや、別にそれでも問題なんてないのだけど。彼と私はもう何の関係もないし、AKIさんとだって別にやましいことは何一つない。なのに、なぜ私は浮気しているようなそんな妙な気分になるのかしら……。だけど一弥さんは、私のすぐ隣には立たず、少しだけ間を開けて、その場で同じようにお酒を飲んでいる。そんな彼は、手足も長く、AKIさんに負けず劣らずモデルのようなスタイルで、一人佇みお酒を呑む姿は、妙に男らしく色気が漂う。普段と違い気を遣う相手もいない、くだけた場だからだろうか。気取らないこのラフな感じは、まだ私が見たことのない彼の姿だった。こういう晴れやかなパーティーみたいな場所で、彼に同行しているときは、必ず私は彼のそばに寄り添っていた。外では良き妻であるために。そんなときは、いつもかし
彼へのイラつきが収まらないまま、私はちゃんと前を向かずに歩いていると──。「キャッ!」「おっと、危ない!」目の前で誰かにぶつかり、思わずお互い声を上げる。するとそこにいたのはAKIさんだった。「あれ? まだ着替えてなかったの?」「あっ、えっと、はい。ちょっと迷っちゃって……」すぐにバレそうな言い訳をして咄嗟に誤魔化す。「そう……。まぁ、今の格好も十分魅力的で俺は好きだけど……」「えっ?」「いや……。あっ、そういえば今日の夜の話聞いた?」「えっ? 夜って何の話ですか?」「あっ、まだ聞いてないんだ。今日泊まってるホテルの会場で、主催者側が皆を招待してパーティー開いてくれるらしい」「そうなんですね」「最後に全部終わったら打ち上げみたいなものもあるとは思うんだけど、まずは決起会みたいな最初にこのイベントを盛り上げるためのパーティーをするみたい」「へ~すごいですね」「場所と時間はこれ」AKIさんがその情報を教えてくれる。「わかりました。ありがとうございます」「ところで……。さっき、撮影終わったあと、君をどこか連れて行った男性って……?」「えっ!?」嘘っ!? さっきの一弥さんとのAKIさんに見られてたの!?もう! あんなわかりやすく激しく連れて行くから!「えっと~あの~」「なんだかすごく親しげというか、切羽詰まってたっていうか……、なんかちょっと二人の雰囲気が妙に気になっちゃって……」AKIさんがストレートに伝えてくる。それがどういう意味なのかまでは決して聞けないけど……。でも少なからずそんな姿を誰かに見られていたことは、あまりいいことではないということはわかる。「もしかして……君の、恋人……?」「はっ……!?」まさかの言葉が飛び出して、思わず私は驚く。「いえ! まさか!!」そう言って私はブンブンと横に首を振って全力で否定する。恋人……では、ない。元、旦那ではあるけれど……。なんて、口が裂けても言えない……。「よかった……」ん……? よかったって、聞こえたような……。「あの……。彼は、私の仕事を管理している人で……」「あぁ。マネージャー?」マネージャー……。あぁ、そんな感じ……なのか?「彼は、ビジネスパートナーなんです」「ビジネスパートナー……?」彼が不思議そうに聞き返す。「はい……。
【一弥side】そういえばあの夜も、確かこんなどうしようもなくなった日だった。同じようにあいつが俺以外の男に淫らなことをしていると初めて知ったときだ……。ずっと手を出さず、あいつとは距離を取っていたのに、それを知った瞬間、俺は爆発したんだ……。ただあの夜は酷く酔っていた。あいつにはそう誤魔化していたけど、いくら飲んでも酔いきれなくて、ただあいつへの止まらない感情が溢れて暴走しただけだった。あれは酒を飲んだ悪い影響だと、自分自身理解出来ない行動に、そう何度も自分で言い聞かせていた……つもりだったのに。ずっとあいつとのあの夜のことも、あのときの俺の抑えられない感情も、そしてあいつとの肌の感覚やどこまでものめりこみ溺れたあの満足感と快感も、俺の中で今でも鮮明に憶えている……。思えばあのときからか……、俺が杏華に今までと違う感情を少しずつ感じ始めていたのは……。なのに、どこですれ違った……。どこで何を間違ったんだ……。俺はあのときも今も、いや、ずっと杏華に対して、どう接すればいいのか、どう向き合えばいいのかがわからない……。この持て余すほどの自分でも厄介なこの感情の意味も理由も、俺はずっとわからずにいる……。昔なら、あいつの口から聞く男の名前は、俺一人だけだったのに、今はあのカメラマンの名前が審判に杏華の口から出てくる。それも嫌でたまらない。あの男の名前を口にするだけで、こんなにも苛立つ。それどころかあいつのことをあんなにも嬉しそうに褒めたり、必死にかばったり……。くそっ! なんでなんだ!……どうして、俺はあいつには素直な言葉が言えないんだ……。あいつに感じた感情が、確かにこの心にも存在していて、本当はすぐそこまでその感情が口から零れそうだったのに……。あいつを前にすると、なぜだかそれが言えないんだ。本当は、言葉を失うほど、その変わった姿が綺麗で目が離せなかったことも、その姿を誰にも見せたくないほど独占欲が渦巻いていたことも、確かにあのとき俺は自分でも気付いていたのに……。俺といたときは、あんなにも弱くて頼りなくて、俺がいないと何も出来ない女だったのに。今のあいつはあんなにも堂々と自分の意志を持ち、プライドを持って、その仕事に誠実に向き合っている。そんなことも本当はちゃんとわかっている。あいつは何でもいい加減に考えるよう
【一弥side】一体、俺はどうしたんだ。なんで、杏華にあんなことをした……。勢いよく出て行った杏華をあとにし、残された部屋で俺はようやく冷静になる。あのときは、自分でも気持ちがセーブ出来なかった。杏華が一人遅れて撮影に現れた瞬間、雷に打たれたような衝撃を受けた。あれは……杏華なのか……?モデルを始めてから、その仕事を経験していくたび、その都度見たことない杏華が現れる。あんな杏華は見たことがない。おどおどしてるわけでもなく、堂々と自分に自信を持ってまっすぐ前を向いてるあんな杏華が彼女の中で存在していたのだと初めて知った。しかもあんなキツイ濃いメイクや髪型をしているだなんて、ありえない。今まで地味で全然化粧っけもない映えもしなかったあの杏華が。そしてそれ以上に見てて耐えられなかったのが、あの服装だ……。なんなんだ、あれは。どうしてあんなに激しく娼婦みたいに肌を露出しているんだ──!あんなに肩も脚も……露になって、女を全面的に出しやがって……!あいつはあんな格好する女じゃないんだ。あいつの肌は、真珠のように白く輝いて、触れるとその肌触りが気持ちよくて、俺の指も身体も肌もすべて吸いつくように受け入れる。あいつの身体はそれほど魅力的で溺れるほどの……って、違う! そうじゃない!俺はどうしてあんな昔のことを思い出してしまっていたんだ。それもあいつがあんな格好して男を誘惑するようなポーズまでして挑発していたから……!そうだ……。なんなんだ、あれは。あんな姿、あのとき俺にも見せたことがなかっただろう……。あのとき、あんなに、恥ずかしそうにしながら俺にしがみつき、すべてを委ねていたくせに……!あのときのあいつと、さっきのあいつはそれこそ別人だった。しかも俺ではなく、あのカメラマンに、見たこともないそんな真逆のあんな女を全面に出した姿を……!今までもやっぱりそんな姿を誰にでも見せていたのか……?お前はいったいどういう女なんだ。どっちが本当のお前なんだ。どうして俺じゃないあんな男にそんな姿を見せる。どうしてあんな大勢の前で、そんな淫らなお前を見せる。あぁ~! 腸が煮えくり返って仕方ない。どうしてこんなにイライラする!どうしてこんなにあいつにもそれを見ていた男たち皆にも腹が立つ!あいつは俺だけの物だった。女の部分も何も
「わかってるわ。だけど、これも今の私よ。ビジネスパートナーっていうんなら、あなたも今のこんな私にも見慣れて早く受け入れて」「……言うようになったな」「えぇ……。私は、今の私が好きよ。こんなにも違う私になれて、とても心が軽くなって清々しい気持ちなの」「今のお前がか……?」「そうよ。AKIさんも今の私をすごく褒めてくれたわ。最高に素敵だって。私自身もそう思える」「はっ……。またあの男の話か」「だったら何よ……」「本当にあいつは仕事だけの感情か? お前にあよわくばという下心なんかを持ってるんじゃないのか」「……何言ってるの!? そんなことあるはずないじゃない!」どうしてこの人はさっきからAKIさんのことでこんなにも突っかかってくるの!?とんだ思い違いで甚だしいわ……!「どうだかな……。あいつのお前に対してのあの視線や態度は普通じゃなかったぞ」バカにするような言い方をして更に彼が煽ってくる。こんな彼……知らない。一体どうしちゃったの……?「あなた……、少しおかしいわよ?」「何がだ……」「さっきから彼のことであることないこと言って、突っかかってばっかり。彼は誰もが認めるすごいカメラマンよ。そんなこと彼が聞いたら呆れて笑われるわ。そもそもそんなすごい人が私を相手にするはずないでしょ?」「相手にしてきたら、お前はどうにかなるのか……」「はっ!? だからそういうこと言ってるんじゃなくて!」「お前がそう思ってるだけで、向こうは実際どう思ってるかわからないんだ。気を抜くな。隙を見せるな」「だからどうしてそういう話に──!」「絶対口説かれてその気になるなよ」「ちょっ、本当にどうしちゃったの……!?」彼のその言葉が、やけに意味深で、私は少しドキッとする。「お前は俺しか男を知らないんだ」「はっ!?」そんなストレートな言葉まで飛び出して私は動揺してしまう。「お前が痛い目を見るだけだ。ちゃんと身の程をわきまえとけ」「──!!」彼の言う言葉は最もだ。最もだし、自分でも十分すぎるくらいわかってはいるけど、なぜだかこの人にそう言われると無性に腹が立つ。どうして私がこんなに頑張っても、こんなに自分で嬉しくなるほど輝くことも出来たのに、この人は認めてもくれないのだろう。カッコよかったとか、頑張ったなとか、綺麗だったとか……。どんな小さな







